ICT活用事例

埼玉県がAI活用で人手不足解消と生産性向上へ―中小製造業の「稼ぐ力」をバックアップ

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埼玉県は東京都に隣接する地域として多くの人口を抱えるだけでなく、全国でも有数の工業県という側面を持っています。製造品出荷額等は全国6位の13兆5075億円(経済産業省「平成30年工業統計調査」)を誇り、県内には多数の企業が製造業拠点や物流拠点を構えています。一方で、他県と同様に生産年齢人口の減少や高齢化が進み、中小企業は人手不足に直面しています。そうした中で埼玉県は、AIを活用して中小企業の人手不足解消や生産性向上をめざす取り組みをしています。2018年度に「中小企業AI活用支援事業」を実施し、AIによる製品外観検査を自動化する実証実験を行いました。中小企業がAIを活用できるようにするための支援体制や、実証実験の成果、さらに今後の計画について、埼玉県の担当者にお尋ねしました。

埼玉県

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(左から順に)埼玉県 埼玉県産業労働部 参事兼先端産業課長 高橋 利男氏、埼玉県 産業労働部長 加藤 和男氏

ご利用いただいたソリューション

「スマートイノベーションラボ」で、製造業におけるAI技術を活用した外観検査の自動化の導入に向けた効果検証

実証実験効果

  • 最新鋭の実証環境が整っていたので、短期間で効果的な導入検証が実現
  • 実証実験のモデル企業10社と、製品の外観検査工程に画像認識AIを導入する効果検証を行い、中小製造業における非常にリアルな事例を収集できたので、2019年度のSAITEC(埼玉県産業技術総合センター)との共同検証事業につながった

ソリューション選定ポイント

  • AI活用の有効性に関する実証で先進的な提案が行え、かつ実現のための設備・技術を有していたこと
  • 画像解析AI判定モデルは汎用性があり、今後の活用展開が期待できること
  • 県内中小企業の課題解決に真摯かつ丁寧に向き合ってくれること

99.8%が中小企業の埼玉県、労働生産性向上が今後の課題

――埼玉県の製造業の現況について教えてください。

加藤氏:埼玉県は首都圏の巨大マーケットで中心に位置し、交通網が発達していることから各主要都市とつながっています。こうした立地は企業が経済活動を行うためにとても適しています。こうした地の利もあり、県内総生産は全国5位(2015年)、10年間の実質値の伸び率は東京に次ぐ全国第2位(2006~2015年)と産業規模が大きく活力も旺盛です。

県内企業は16万社を超えていますが、実はそのうちの99.8%が中小企業であるということが埼玉県の産業の特徴でもあります。すなわち、埼玉県の発達は中小企業の奮闘が支えているのです。

――埼玉県の中小企業が、産業原動力や労働生産性で抱える課題は、どのようなものでしょうか。

加藤氏:大きな課題の1つが人手不足です。埼玉県では今後、全国トップクラスのスピードで高齢化が進行する見込みです。生産年齢人口減少による中小企業の人手不足に手を打たないと、産業規模も減少するリスクが高まります。

そのため、埼玉県では女性やシニアの労働参加促進と労働生産性向上の施策に力を入れることが、人手不足という課題解決に向けた1つの方法になると考えています。

埼玉県 産業労働部長
加藤 和男氏

労働生産性向上にAIを活用、導入効果をまずは「見える化」

――埼玉県では、県の各事業にAIを活用する方針を打ち出しています。商工業進行を担当する産業労働部では、中小企業の生産性向上をめざしてAI活用支援事業を立ち上げました。その経緯はどのようなものでしたか。

高橋氏:埼玉県ではこれまでも、AIを用いた工場内故障診断システムの構築やAI人材の育成支援など、多岐にわたる施策を講じてきました。

加えて、AI活用による効果はどの程度のものなのかといった情報を「見える化」して提示することも、中小企業へのAI導入の促進には欠かせません。

そこで、2018年度に、AI活用効果の見える化とその発信を目的に「中小企業AI活用支援事業」を実施することになりました。文字通り中小企業がAIを活用するのに、どのような取り組みが可能かという企画をプロポーザル方式で募集しました。審査の結果、「外観検査」を提案してきたNTT東日本に委託することにしました。具体的な内容は、製造業におけるAI技術を要した外観検査の自動化の導入に向けた効果検証です。

今回の事業ではより多くの中小製造業がAI活用につなげられるように、汎用的な活用が可能な画像認識AI技術について検証しました。製品が良品か不良品かの判定はどのような中小製造業にも共通の業務で、自動化によって生産性向上につながると判断したものです。

 

「スマートイノベーションラボ」を活用、
膨大な画像データ処理や高速学習が可能に

――検証にはNTT東日本が持つAI・IoT技術の共同実証環境「スマートイノベーションラボ(以下、ラボ)」をご利用されています。ラボは、高性能なGPUサーバーを備え、かつ低遅延でセキュアな通信環境で実証が可能です。具体的にはどのような実証を行いましたか。

加藤氏:なかなか触れる機会のない最新鋭の実証環境が整うラボの活用は、非常に効果的でした。東京・蔵前のラボにあるGPUサーバーを活用することで、膨大な画像データ処理や高速学習が可能になり、短期間で効果的な導入検証が実現できました。

高橋氏:実証では、まずAI導入効果について企業の理解促進を図り、AI導入効果検証の調査協力企業を募るため、AI活用セミナーを開催するなどAI活用調査を実施しました。AI活用セミナーは予想以上の反響で、3回の開催に45社63人が参加しました。その後、個別相談を経て最終的に10社に調査協力企業として協力してもらうことになりました。

次の段階として、実際のAI導入効果検証を実施しました。調査協力企業の製造現場での課題に対して、解決、改善が見込めるかを検証するものです。製品の外観検査工程に画像認識AIを導入するため、この段階では、最初に調査協力企業10社に不良部分の製品画像データ100枚程度用意してもらいました。これらの画像をラボのGPUサーバーで高速学習させ、各社オリジナルのAIモデルを作成しました。作成した各社のAIモデルを使い、製品画像を読み込ませて良品と不良品を判定。そして、それぞれのケースで判定精度などを検証し、AI導入効果がどの程度あるかを評価しました。不良品を不良品と判定する不良品正答率が100%になるような結果も得られましたが、製品の光の反射や不良の種類などによって正答率が下がるといったことも分かりました。中小製造業における非常にリアルな事例を収集できたと思います。

加藤氏:画像データの撮影の仕方で学習効果に大きな違いが出たことが、興味深かったですね。こうした知見の蓄積も、今後に役立てられると思います。

高橋氏:検証結果を踏まえて、調査協力企業にAI専門家を派遣してAI導入支援コンサルティングを実施しました。労働生産性向上効果の推計値を提示して、AI導入に向けた課題や解決策を提示するとともに、どのようなスペックを持つAIの導入が適当か提案を行っています。

埼玉県 埼玉県産業労働部 参事兼先端産業課長
高橋 利男氏

AI活用のシミュレーション事例をまとめ、
県内中小企業に情報提供と支援を継続

――中小企業のAI導入推進で今後の展望を教えてください。

加藤氏:AIはあくまでツールです。AIができること、できないことを理解した上で、自社の課題解決にどう役立てていくかを判断することがとても大切です。その理解促進のためにも、引き続き普及啓発や人材育成の支援、成功事例の発信を続けていく必要があります。埼玉県では「AIを経営に活かすために」といった製造業向けのパンフレットを作って検証結果を告知し、AI活用支援に取り組んでいます。

また2018年度実証実験に続き、2019年度には埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)とNTT東日本の間で、中小企業に向けたAI活用の共同検証事業に取り組んでいます。埼玉県の公設試験研究機関として県内中小企業各種支援を行うSAITECがラボを活用し、県内中小企業発展のためのAIソリューションモデル確立をめざす取り組みです。公設試験研究機関がラボを活用した共同事業は、全国でも初の取り組みになります。

高橋氏:今後は5G(第5世代移動通信システム)など新しい技術が普及し、ICTの可能性はさらに広がります。そうした最先端部品やセンサーなどの製造は、県内の中小企業が担っている部分が多くあります。AI活用を通じて人手不足解消や生産性向上を実現し、県内の中小企業の稼ぐ力や将来の糧となるシーズをバックアップしていくのが、行政の務めだと考えています。

加藤氏:人手不足など諸問題を解決し、イノベーションを起こすにはAIやIoTの導入が不可欠です。NTT東日本の先進的な技術力を借りて、県内の中小企業を積極的に支援していきたいと考えています。

※上記ソリューション実証実験期間は2018年4月~2019年3月です。
※文中に記載の組織名・所属・肩書・取材内容などは、すべて2019年8月時点(インタビュー時点)のものです。
※上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。

 

Column AI・IoT技術の共同実証環境として社会実装を支援 NTT東日本の「スマートイノベーションラボ」

AI・IoT技術を活用したビジネスモデルの早期実現および社会実装を加速させ、社会課題の解決に貢献する共同実証環境として、NTT東日本は「スマートイノベーションラボ」を設立しました。NTT東日本が各地に保有する通信ビルやデータセンターなどを活用したエッジ拠点での閉域ネットワークを提供し、低遅延かつセキュアな通信環境を提供します。また、「スマートイノベーションラボ」の中核となるNTT蔵前ビルでは、膨大なデータの高速処理が可能なGPUサーバー、NTTグループのAI関連技術「corevo(R)(コレボ)」の学習高速化技術などに加え、パートナー企業や大学が共同作業できるスペースである「スマートイノベーションルーム」を設置しています。

これらの設備によって、AI・IoT技術検証環境で求められる秘匿性の高いデータに対応するためのネットワーク環境や、膨大なデータの解析に耐えられるコンピューティングリソースを提供します。埼玉県の中小企業AI活用支援事業では、こうした特徴を備えたスマートイノベーションラボを活用し、AI活用のシミュレーションを推進しました。

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組織名 埼玉県
組織概要 関東地方の埼玉県は海に面さない内陸県。面積はおよそ3800平方キロメートルで、全国で39番目。一方、人口は約733万人で全国第5位(2018年10月1日時点)。山地面積がおよそ3分の1、残りの3分の2が平地。夏は蒸し暑く、冬は乾燥した北西の季節風が吹く。生産年齢人口の割合は6割を超す。
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