2018.3.30 (Fri)

【特別企画】キーパーソンが語るビジネス最前線(第2回)

従業員が気持ちよく働ける場をICTで実現/津田大介

posted by 秋山 由香

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 いまやICTは、ビジネスに欠かせない存在だ。メールでの連絡やビジネス文書の作成だけでなく、クラウドを活用した情報共有、スマートフォンを利用した決済業務、人事労務管理や給与計算など、あらゆる分野でICTがその力を発揮している。

 しかし一方で、「ICTの導入がうまく進まない」「テクノロジーの進化に追いつけない」と嘆く経営者や管理職も少なくない。どうすれば中小企業のビジネスに役立つサービスを適切に探し出すことができるのか、そして、ICTの導入をスムーズに進めることができるのか――。Twitterブームの立役者としても知られるメディア・アクティビストの津田大介氏に、「中小企業のICT活用とこれから」について語っていただいた。

インターネットの第二元年で足踏みしている中小企業

 企業とICTについて語る前に、まずはインターネットの歴史をおさらいしておきましょう。

 インターネットは1995年に、Windows 95が登場したことで一般に広がりました。ただし当時は、まだまだ24時間、誰でも気軽に情報にアクセスできる時代とは言い難かった。ダイヤルアップ接続で通信を行っていたため通信費が異常に高く、PCを持つ一部の人がテレホーダイの適用時間帯となる深夜帯に、ぽつりぽつりとインターネットにアクセスしている程度でした。企業にもやっとPCが導入され始めたという状態で、部署に1台しかない共有PCを譲り合って使うようなおおらかな時代でしたね。

 この状況をガラリと変えたのが、1996年に登場したNTT(当時)の常時接続サービス「OCNエコノミー」の存在です。それまでは常時接続をしようとすると月数十万円のお金が飛んでいくような状態だったのですが、OCNエコノミーによって、月数万円で常時接続が行えるようになりました。これで、一気に企業へインターネットが普及し、メールを使った連絡や、自社サイトを持つことが当たり前になってきたのです。インターネット元年というと「1995年」「Windows 95」だと言われることが多いのですが、インターネットの本質が「常時接続」であるということを考えると、僕は「1996年」「OCNエコノミー」が、本当のインターネット元年だったのではないかと考えています。

 もう1つの分水嶺、インターネットの第二元年といえるのが、2006~2007年です。SNSのFacebookが一般に開放され、Twitterがスタート。そして、iPhoneとAndroidといったスマートフォンが発表されました。また、2006年のGoogleカンファレンスで当時の会長だったエリック・シュミットがはじめて「クラウド・コンピューティング」という言葉を使ったこともその1つです。今、私たちの生活を支えているSNS、スマートフォン、クラウドというものが一気に世に出てきた、まさに革命的な時代でした。インターネットによる情報共有の根幹が出来上がった、とても重要な2年間だと考えています。

 同時に、このころから「テクノロジーについていけない」という人が現れ始めました。Microsoftという世界的老舗企業と国内の通信会社が、比較的ゆっくりと引っ張ってきたインターネットの世界は、海外の学生ベンチャーや新興企業によって、突然、桁違いの拡がりを見せるようになったからかもしれません。2006~2007年頃の時代で足踏みをしている中小企業も少なくないように思います。

ツールありきの導入が、現場でミスマッチを起こす


 ではどうすれば、ICTの導入を推し進めることができるのでしょうか? 答えはいたって簡単です。「ICTありきではなく、まず目的ありきで考えること」、これに尽きます。

 「なにやら〇〇というグループウェアを使って業務改善に成功した企業があるらしい、ウチも入れてみよう」とか、「最近、AIやIoTが話題になっているらしい、導入してみよう」というふうに、ツールや技術先行で考えてしまうとミスマッチが起こりがちです。結果、導入してみたけれど自社の仕組みに馴染まない、使いこなせないという事態に陥ってしまう。そうではなくて、「自社の課題はなんなのか」「それを解決するためにどうしたいのか」「自社がどうなれば、従業員が気持ちよく働けて、売上や利益が上がるのか」から考えていきましょう。

 たとえば徳島県・上勝町の株式会社いろどりは、刺身などに添えられる「つまもの」の出荷を行う「葉っぱビジネス」の会社です。つまものの入札・出荷管理を各農家がタブレット端末を使い、需要にあわせた出荷量で値崩れを防ぐというICTの力でビジネスを成功に導きました。タブレット端末を使っているのは、高齢者の方々。高齢者が農作業をしながら、リアルタイムに生産管理を行えるシステムがあれば、従来から行われてきたつまものビジネスが大きく成長するのではないか、そんな考えのもと、タブレット端末による生産管理ネットワークが構築されたのです。

 また、高機能なスマートフォンを「孫とライブチャットで話したい」「写真や動画を共有したい」という一心で使いこなしてしまう高齢者も多いと聞きます。目的があれば、人は意外と簡単にツールを使いこなしてしまうんです。

 目的が明確になったら、次にソリューションを選ぶわけですが、ソリューション選びを成功させるポイントは「現場に任せる」ことだと思います。経営者や管理職ではなく、現場の従業員にいくつかのツールを試してもらい、いちばん使いやすいものを選んでもらうのです。採用するツールは部署ごとに変えても構いません。あまりあれこれ制限を設けず、シンプルに「目的のため」「最適なツール」を選ぶことが重要です。

 「現場に委譲したはいいが、なかなか進まない」、そんなときは、今なら現場の担当者を中国へ視察に行かせるのがよいかもしれません。中国は日本と比較にならないぐらいキャッシュレス化が進んでいます。生活のほとんどすべてを電子マネーで賄うことができ、現金がなくても生きていけるようになっているのです。他にも、サイクルシェアなどの仕組みが整備されており、あらゆるインフラがインターネットによって支えられていることが感じられます。中国のインターネット環境に触れると、急成長の理由や日本がいかに遅れているかということ、そして、日本も変わらざるを得ないことがわかります。間違いなく危機感が高まり、意識が変わりますので、ぜひ視察に行ってみていただきたいなと思います。

世界最強の通信インフラを活かして働きやすい環境に

 日本の通信インフラは、「世界最強」と言っていいぐらいに整っています。こんなに高速で、安定した、質の高い通信が、全国どこでも享受できる国はそうそうありません。このインフラ環境をいかにして活かすかが、今後、企業の生き残りのポイントになるのではないかと思います。

 僕が注目しているのは、テレワークです。ビジネスパーソンにとって大きなストレスになっている通勤ラッシュから逃れられるというだけで生産性が上がるのではないかと思います。また、介護や子育てなどで自宅から離れられない人に働いてもらうこともできますね。これから少子高齢化が進み、どんどん働き手が減っていきます。こうした状況ですから、従業員が働きやすい環境を作る企業だけが、よい人材に逃げられずに生き残っていくことができると思うのです。副業を認めたっていい、フレックス制を採り入れてもいい。世界最強の通信インフラを活かして、ぜひ働きやすい仕組みを作っていただきたいなと思います。

 「テレワークだと管理がしにくい」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それなら週1日は出社するなどルールを決めればよいと思います。Skype、Slack、ChatWork、LINEといったコミュニケーションツールを使いながら、週に1日は顔を合わせるなどすれば、意外と仕事は回るもの。他にも働いている時間と内容を確認できる在席管理システムや、遠隔操作ができるコミュニケーションロボットなど、さまざまなツールがありますので、まずは試してみることをおすすめしたいですね。

フィルターバブルに溺れないための処方箋

 テクノロジーが進化するとともに問題になってきたのが、「フィルターバブル」です。フィルターバブルとは、インターネットの検索サイトが利用者の検索履歴などを学習してユーザーにとって好ましい情報ばかりを表示し、好ましくない情報を遠ざける状態を指す造語になります。自分自身が作り出したフィルターに包まれることで、思想が偏っていく可能性が高まるのです。

 知らず知らずのうちに、自分と価値観が異なる情報にアクセスできなくなるというのは、とても恐ろしいことです。そこで大切にしたいのが、アナログの情報。これからは、リアルな書店で本を買ったり、人に会って直接話を聞いたりと、意識的にフィルターバブルの外に出るという行動がとても重要になっていくと思います。情報収集は、インターネット3割、本や新聞といった紙メディア3割、人から直接情報を得ること4割ぐらいのバランスで考えるとちょうどよいのではないでしょうか。インターネット社会が進んでいるからこそ、複数の情報源を持つことが欠かせないのです。

 今後はビジネスだけでなく、教育の現場にもどんどんICTが導入されていくでしょう。すでに大学では授業にタブレット端末を持ち込むことが当然になりつつありますし、全生徒にタブレット端末を持たせる中学校や高校も出てきています。インターネットで情報を得るのは、大人だけでなく子どもたちにとっても日常的なこと。得た情報をどのように選び取り、活用するかをしっかり教えなければなりません。インターネットリテラシー、メディアリテラシーを高める教育が、よい人材をつくり、ひいては未来の日本を支える人材を育てることにつながるのではないかと思っています。

 

津田大介(つだ だいすけ)
1973年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長、有限会社ネオローグ代表取締役、早稲田大学文学学術院教授、大阪経済大学情報社会学部客員教授、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事などを務める。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行い、ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。Twitterブームの立役者としても知られる。『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術』(PHPビジネス新書)など、著書多数。

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秋山 由香

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