【特別企画】スペシャルインタビュー「あの有名人が語る!」(第26回)

「時間と集中力の無駄遣いはダメ」羽田圭介の仕事観

posted by 秋山 由香

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 17歳という若さで文芸賞を受賞し小説家デビューを果たした、小説家・羽田圭介。学生小説家として執筆活動を続け、その後、一般企業に就職をしてから専業小説家へと転身した。専業小説家になって6年が経過した2015年に、「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞。以降、独特のキャラクターで注目を集め、現在も執筆活動を続けながら多くのメディアに出演している。

 前編では、小説家になったきっかけや心掛けていること、自分が書いた作品をボツにするか否か決める際の「判断ポイント」などについてお聞きした。

 後編では、新卒で就職した一般企業を1年半で辞めた理由、仕事に埋没することなく成長し続けるために必要なこと、芥川賞を受賞してからの変化などについて詳しくお聞きした。2017年に上梓した『成功者K』をはじめ、刺激的な作品を生み出している羽田。話題作を書き続けるための「学び」や「工夫」から、メディア出演に対する考え、気分転換の方法まで、ビジネスのヒントになるエピソードを語っていただいた。

居心地のよい会社員生活を、わずか1年半で手放す

――大学卒業後に新卒で一般企業に就職されて、1年半で辞めたと聞きました。なぜ就職されたのでしょうか? 最初から小説家1本でやっていくという選択肢は考えませんでしたか?

 若い頃は自信過剰だったので、自分の職業は小説家で決定している、死ぬまで小説家だと信じて疑いませんでした。その前提があった上で、「就職しないとわからない世の中の仕組みもあるだろうな」と思い、広義の意味での取材のために就職したという感じですね。それより大きな理由として、せっかく付属中学時代からも含め大学まで10年間も私立の学校に通わせてもらったのに、専業小説家という学歴の関係ない身分になるのが親に申し訳なくて。自分にとって一番面倒くさくない道が、とりあえず一般企業に就職することでした。

――会社員経験を通して学んだこと、身に付けたこと、今も役立っていることなどはありますか?

 うーん、特にないですね。強いて言うなら、「小説を書く上で会社員経験は必要ない」ことがわかった、といったところでしょうか。

 学生という肩書が外れ、会社員兼小説家になったことで、責任や緊張感のようなものは感じました。が、それも最初の1カ月だけ。人間が、自分の生活を平板なものに整えようとする力って、めちゃくちゃ強いと思うんです。だからすぐに慣れてしまう。最初はテンパっていても3カ月経つ頃にはルーティーンになって、すべてが刺激の少ない日常になってしまうんですよね。

 新人で大した仕事を任されていなかったから、というのもあるとは思うんですが、就職して少し経った頃に「会社員経験は、小説のネタとして2~3作品には使えても、小説家としての成長そのものには関係ないんじゃないか」と思うようになりました。それに、学生時代にデビューして一度も就職しないまま専業小説家一筋でやってきた人たちの小説ほど、面白かったりするのが、なによりもの証拠ではないかと。

 本当はもっと早く辞めるつもりだったのですが、周りの人たちが親切で、大企業が故に無能な人間でもまぎれこめてしまう居心地の良さもあり1年半も勤務してしまった……という感じです。「このままじゃマズイな」「そろそろ小説を書くか」と思って、軽い気持ちで退職しました。

時間の節約という感覚がない人は、何事もなし得ない


――羽田さんは一般企業を退職するという形で自分を成長させる道を選ばれましたが、会社員が「仕事はルーティーン化してつまらなくなった。しかも成長がなくなってきた。でも転職はできない」という状況に置かれることもあるでしょう。そのような状況で、日常に埋没しないで、成長し続けられるコツのようなものがあれば教えてください。

 無駄な時間を削るしかないですね。そして勉強するしかありません、広義の意味で。もっとも効率よく、手軽に勉強できる方法は、本を読むこと。僕は近所の大きい本屋に通って、小説だけでなく経済や建築など、とにかく少しでも興味のある本を買いまくり、時間がある限り読むということをしています。

 人から話を聞いて知識を蓄える方法もあるとは思うのですが、よい人に出会えるかどうかは不確定要素が多いですし、そもそも口伝えの話から精確かつ大量の情報を得るのは、かなり難しいことです。その点で、密度の高い情報を、誰でも簡単に得られるのは本を読むことだと、最近すごく思っていて。寝る時間を惜しんで本を読み、読みすぎて時間がないという日々を過ごしているんですよ。

 本を読み勉強する段階を経てはじめて、人から話を聞くことにも意味が出てくる。教えてくれる人の話し方や非言語的要素によって、どこが大事なのかが体感的にわかるからです。

 こんなに読むべき本があるなかで、変にビジネススクールとかに通う必要はないよなと。本を読むことを馬鹿にしてはいけない、勉強って本当に面白いなと感じています。だから、漫然と酒を飲んでテレビを見たりネットサーフィンしている時間があったら、それを全部カットして、勉強すればいいんじゃないかと思いますね。

――「情報」を「読んで勉強する」ということはウェブ媒体でもできると思うのですが、それでも本のほうがよいとお考えでしょうか?

 紙の本は、印刷して世に出回ると訂正することができませんからね。だからこそ、責任の所在がはっきりしていて、密度が濃く、ある程度は情報が精査されています。

 一方のウェブ媒体は、あとからいくらでも訂正できるため、情報の垂れ流しが多すぎる。もちろん、ちゃんとしたライターさんが書いた、校正・校閲がしっかりと入った記事もありますが、中学3年生以下の酷い文章の、PV数の獲得だけが目的の胡散臭い記事が圧倒的に多いです。こうした情報が入り混じるなかで、ちゃんとした情報を自分で探すこと自体が手間になり、かえって高くつくのです。

 それなら、お金を払って本を買ったり、有料の電子書籍を読んだり、有料のウェブ媒体を見たりしたほうがいいだろうなと。無料のネットニュースで済ませ時間と集中力を消耗する人がいる傍ら、優秀な人は金を払い時間を無駄にすることなく質の高い情報を得て、どんどん差が開いていくんだろうなと思います。

――なるほど。紙かウェブかというより、無駄な時間をかけずに効率よく良質な情報を得る、とうことが大切なんですね。

 そうですね。自分の時間や集中力の無駄遣いを抑える感覚のない人は、たぶん何もなし得ないんじゃないかと思いますよ。

仮眠ではなく50分の「昼寝」が、集中力をアップさせる

――冒頭で、「軽い気持ちで退職した」とおっしゃっていましたが、独立のための準備などはどうされていたのでしょうか? 会社員をやりながらコツコツ進めていたのか、それとも準備なしで独立されたのか……?

 なにも準備していませんでした。母親から「会社員のうちしかローンなんて組めないんだから、とりあえずマンションを買っておきなさい」と言われて、銀行融資を受け1,540万円の狭い中古マンションを買ったくらいです(笑)。

――特段の準備などはなく、辞めてすぐ小説家としての生活が始まった、と。

 そうですね。専業小説家になるために苦労したことはないのですが、なってから苦労したのが、生活にメリハリをつけることでした。会社に行く必要がなく、外に出なくてよいとなると、自由に時間が使えてしまう。マンションのごみ出しが当日の朝8時までと決められていたので、一応毎朝8時までには起きていたのですが、決められているのはそれだけ。芥川賞を取るまでは今ほど忙しくなかったこともあって、ずっと自分の生活が不健全な感じがしていました。

――確かに、ひとりで気ままに過ごしているとリズムが乱れ、どんどん生活が不規則になってしまいますね。「不健全」を払拭するためになにか努力されたことはありますか?

 努力というほどではないんですが、部屋のなかで腕立て伏せやスクワットといった激しい運動をしたり、部屋を真っ暗にしプロジェクターで映画を観るなどして、頭と身体をリフレッシュさせるようにしていました。

 いちばんの気分転換になったのは昼寝ですね。思考がちょっとぼーっとしてきたときや集中力が落ちてきたとき、ベッドに入って50分ぐらい昼寝するようにしていました。15分程度の短い仮眠ではなくしっかり昼寝をすると、疲労感がなくなって、本当にスッキリするんです。一晩寝たような、1日に2回、午前中がやってくるような感覚があり、集中できる時間がグッと増えました。昼寝は非常に効果的だと思いますよ。ただ、夜に眠れなくなるんで、そのコントロールが難しいですけど。

努力を嫌い、ラクな方向へ流れる人は成長しない

――2015年に「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞されました。受賞前と受賞後で、やはり生活や仕事の内容はガラリと変わったのでしょうか。

 賞を取ったというだけで、あまり変わらないですね。ただ、テレビに出たことでの変化はありました。知らないおばさんに声をかけられたり、存在すら忘れていた知人からメールがきたり(笑)。

 テレビや雑誌取材等の仕事が増えたことでしばらく、小説に向き合う時間が減ったという変化もありました。週に5~6日、テレビの収録や打ち合わせ、取材など、外での仕事をこなす日々が続いてしまって……。その間、1日だけ時間が空きました、となっても、なかなか集中して執筆に取り組めず、ちょっとしんどいなあと感じていました。

 そんな日々が10カ月ぐらい経った頃、たまたま数日間、外での仕事がない期間ができて。そこで集中して執筆に取り組んだら、とても大きな直しの作業がたったの1週間で終わったんですよね。前は「午前中とか集中できる時間にしか、神聖な執筆の仕事はやらない、できない」みたいな意識があったのですが、「忙しくなったらなったで、人間って適応するんだな、できるものなんだな」と気付きました。

 それ以降は、空いている時間に最大限集中して書くことができるようになりました。『成功者K』は、2カ月ほどで第一稿を書き上げることができたんですよ。以前の自分だったら2カ月で400字詰め原稿用紙500枚の小説を書くなんてことは不可能だったと思います。芥川賞を受賞して、各メディアでの仕事をこなすようになり、忙しいなかで書くことを身に付けたからこそ、集中して一気に書くことができました。

――2カ月で執筆とは! 小説を書きながら、各メディアへの出演もこなされているわけですよね? そのような忙しい日々のなか、各メディアでの仕事には、どのようなスタンスで向き合っていたのでしょうか? メディア露出の意図、ねらいなどあればお聞かせください。

 小説以外の仕事は、ネタ探しと気分転換でやらせていただいています。たとえばテレビ業界の方からしてみたら、「気分転換で来るなよ」って感じだとは思うのですが。緊張感や適度な外的ストレスも含めての、“気分転換”です。もちろんクイズ番組では、一生懸命答えようとはします。早押しで負けてすぐ脱落しちゃいますけど。

――メディアに露出する際、なにか気をつけていることはありますか? セルフプロデュースなどは意識されているのでしょうか?

 特に意識はしていません。そもそも人間って、自分をプロデュースできるほど頭がよいものなのでしょうか? 大衆をコントロールしているつもりの人は、本人は計算づくでうまくやれているつもりだけど、実は天然でやっているだけ、ということが多い気がします。天然でやっているだけなのに、「自分は、自分や他人をコントロールしている」と思い込んでいるというか。だから僕は、特に何も考えないようにしています。

 やれブランディングだ、セルフプロデュースだと、浅いビジネス本やビジネスセミナーに感化されている暇があったら、もっとちゃんとした本を読んだほうがいいと思います。分厚い教養本を読むより先に、ああいうセミナーに行っちゃう時点でダメなんじゃないですか。セミナーは開く側になるのはいいけど、受ける側になってはいけない。

――耳が痛い、というビジネスパーソンも多そうですね。お話を通して、「他人の意見に頼らず自分の考えや手応えを信じること」「強い向上心と時間を節約するという意識を持って勉強し続けること」の大切さを改めて認識しました。最後に、読者に対してなにかアドバイスがあればお願いいたします。

 成長したい人は孤独な時間をきちんと作って、真面目に勉強すべきです。以前、インターネット放送の企画でセンター試験を受けたことがありました。中学受験しか受けたことがなかったということもあり、その時、ろくに解答できず、「世間の高校生はこんなに難しいことをやっているのか」とびっくりしたんですよね。国語の問題もすごく難しくて、高度な論理的思考力が必要な内容でした。それを突破するには、相当真面目な勉強が必要なはずで、僕は若い人たちに、割と希望を持っているんです。

 問題は、歳を重ねていっている人たち。自分の知らないことを学んだりなにかを成し遂げるための努力を嫌い、すぐに人に頼りたがります。所詮人間なんて、誰かから強制されなかったり、人から怒られなくなれば、そのように退化していきます。自己世界を己の慣習だけでまわそうとする、ラクな方向に流れがちな大人は多いです。もっと大人たちは、「十代の若い人たちと比べてラクなことしかやっていないこと」に自覚的になるべき。自分たちは受験生のような負荷には耐えようとしていない、適当に身を任せているだけだという認識を持って、学びを継続させなければならないでしょう。

羽田圭介(はだ けいすけ)
1985年、東京都生まれ。明治大学付属明治高等学校在学中に、兄弟が憎み合い、お互いの机を漁って家庭内ストーキングをくり返す様子を描いた「黒冷水」で、第40回文藝賞を受賞する。高校生小説家として鮮烈な小説家デビューを果たした。その後、明治大学に進学。2006年に『不思議の国のペニス』、2008年に『走ル』を発表。大学卒業後は一般企業に就職するが、1年半で退職し、専業小説家となった。2010年に『ミート・ザ・ビート』、2012年に『「ワタクシハ」』、2013年に『盗まれた顔』、2014年に『メタモルフォシス』を上梓。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞する。お笑い芸人の又吉直樹『火花』との同時受賞でも話題となった。2017年3月に『成功者K』を出版。

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