元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第50回)

会議資料を廃止した、ミスターミニットの大胆改革

posted by 平島 聡子

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 靴修理の老舗企業、ミスターミニット。駅構内などにある青い看板の店舗を利用した経験のある人も多いのではないでしょうか。ミスターミニットは、日本国内に約300店舗を有し、最近では靴磨きや時計修理、スマートフォン修理などの新サービスも展開している企業です。

 じつはミスターミニットは、数年前まで業績が10年連続右肩下がりの状態で、社員の士気も高くなかったそうです。しかし、2014年に29歳の若さで社長に就任した迫俊亮(さこしゅんすけ)氏の下で、現場を中心に組織の仕組みを作り変える改革を行い、わずか3年弱で業績はV字回復を遂げています。

 ミスターミニットが行った現場中心の改革内容と成功の秘訣を、迫氏の著書『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』から紐解いていきます。

会社の現場重視というメッセージを示した仕組み

 右肩下がりの業績を打破するため、まずミスターミニットが行ったのは、「会社が現場を重視している」というメッセージを、言葉ではなく、人事制度や会議資料といった仕組みの変更で具体的に示すことでした。

 社員の士気に大きくかかわるのが人事制度です。従来のミスターミニットの人事評価制度は、売上・お客様満足度・チームワーク・勤務態度・提案力など、一般的に大切だと思われる要素が全て盛り込まれ、それぞれに細かい定量基準が定められていました。しかし評価項目や基準が細かすぎて覚えられないため、現場がこの基準を意識して行動することがなくなっていました。

 そこでミスターミニットでは、評価要素を「お客さまが喜んでくださる行いをする」ことと「ミスターミニット『らしい』行いをする」ことの2点のみに絞りました。そして評価基準はあえて大雑把にし、現場に裁量を持たせるようにしたのです。

 たとえば以前は「この作業を何秒でできるか」といった細かい定量基準を設けていましたが、「この作業が十分なレベルで行えるか」という定性基準に変更しました。大雑把な定性基準に変えたのは「現場が合格といえば合格」という現場主義を伝えるメッセージでもありました。

 人事制度に続き、ミスターミニットは会議も現場中心に作り変えます。旧来の会議は「マネジメント層が知りたい情報を得る」ために行われました。社員は、マネジメント層が使う会議の報告資料(情報)の作成に多くの時間を取られていたのです。そこで、負担となっていた会議資料を全て廃止したところ、社員は資料作成に費やしていた時間を、現場に出向く時間にあてるようになり、よりリアルな現場の情報を会議の場に提供することが可能になりました。報告資料の撤廃により、会議自体も、マネジメント側と現場が現在進行形の課題について共有・議論する有意義な場所に生まれ変わったのです。

 このように、会社が現場を徹底的に重視しているというメッセージを人事制度や会議といった仕組みで示すことにより、現場の士気があがりました。結果、現場の社員たちが、会社の動きを自分事として捉えるようになり、自ら考え行動を起こすようになったのです。

改革は少人数ではじめて圧倒的な成功例を作る

 ミスターミニットのもう1つの成功要因は、全社一斉に改革を実行するのではなく、まず一部だけで改革を実行し、試行錯誤をしながら成功例を創出。その成功例を見本として、徐々に実施する範囲を広げていくというやり方です。

 迫氏が就任する以前も、何度か新しい施策や改革の全社号令がかかったことがありましたが、社員間で士気のバラつきが生じてしまい、各組織に改革推進派が数名いたとしても、多数を占める現状維持派に勢いを削がれていました。その結果、改革は徐々にトーンダウンして、定着することなく元の状態に戻るということを繰り返していたのです。

 そこで迫氏は、まず改革を全社レベルではなく、部署や店舗などのごく少人数で実施。そこで圧倒的な成功例をつくって、それを全社に広げていくように変えました。従来の改革が上から下へだったのに対して、点を面に広げるというように進め方を変えたのです。

 この進め方で大成功したのが、靴磨きという新サービスの導入です。ミスターミニットでは過去の経緯から「靴磨き=失敗」というイメージが定着しており、社員の大多数が導入に反対でした。そこで、熱意を持つ少数の社員だけでチームをつくり、ごく一部の店舗でだけ靴磨きサービスを始めました。そして何か問題が発生したら、すぐに原因の検証と修正をする、という小さな改善サイクルを高速で回していきます。これを3カ月ほど繰り返すと、大概の失敗やミスが出尽くし、その対応策も確立されるため、靴磨きサービスは成功モデルとなりました。

1つの成功例が改革に対する現場の意識を変えた

 この成功モデルを目の当たりにした他の社員たちは、「自分たちの店舗でも導入させてくれ」と申し出るようになり、主体的に新サービス導入という改革に取り組むようになりました。

 そして「新しいことに挑戦しても成功するはずがない」という社内の空気が一変し、現場が躊躇せず改革に取り組むような雰囲気が生まれていきました。

 組織の改革には、変えることの意義や内容を細かく説明するよりも、「あの状態を目指せば良い」といった倣うべき成功例を見せるほうが説得力は高いのです。

 このようにミスターミニットのトップが行動で示すという改革方法は、現場の士気向上に悩む多くのリーダーたちにとって、大いに参考になる事例ではないでしょうか。

【参考書籍】
迫 俊亮『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』ディスカバー・トゥエンテイィワン

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平島 聡子

平島 聡子

ヨーロッパ在住ビジネスライター。大企業・ベンチャー双方での就業経験や海外でのビジネス経験を活かし、経営や働き方に焦点を当てたコラムやインタビュー記事の執筆を手掛ける。

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