2017.8.25 (Fri)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第35回)

レッドブルが差別化と優位性を実現したマーケ戦略

posted by 山下 正之助

このエントリーをはてなブックマークに追加
Evernoteに保存
印刷

 レッドブルは、エナジードリンク市場において世界で60億本以上もの販売実績(2016年時点)を持つ企業です。飲料メーカーで世界的な企業といえばコカ・コーラやペプシコ、国内はサントリーやアサヒ、伊藤園などのように歴史のある企業が多くを占めています。1980年代半ばにオーストリアで創業した新参者であるレッドブルが、短期間で60億本以上という販売実績を持つ企業に成長できたのには理由があります。

 同社が世界的な成功を収めたのは、創業者のディートリッヒ・マテシッツが従来の常識にとらわれないブランド・マーケティング戦略を実践してきたからです。

製造・流通は委託し、マーケティングが主業務

 レッドブルはオーストリア人のマテシッツ氏が、タイの清涼飲料メーカーとライセンス契約した清涼飲料水を、1987年にエナジードリンクとして発売しました。じつはレッドブルは、商品の製造や流通は他社に委託しています。それらの代わりに、レッドルブルはブランド・マーケティングに注力しているのです。

 マーケティングに関する戦略は、多くの企業が代理店に委託し、宣伝やイベントなどのプロモーションを展開しています。プロモーションは、代理店がリサーチした情報を元に行うのが一般的で、多くの目的が「商品の告知」です。そのため広告を出稿する媒体は、多く人が目にするテレビや雑誌、スポーツなど、人気や認知度ある媒体がターゲットになります。

 マテシッツ氏はレッドブルの販売を始めた1987年から、ブランド・マーケティングに関する業務を自社が中心となって行ってきました。同氏は商品の告知という目先の戦略ではなく、ブランドを確立させることを意識していたのです。そのため、商品を従来のカテゴリーに当てはめるのではなく、新しいカテゴリーの確立に挑みます。

新カテゴリーを確立させたプロモーション戦略

 それが「エナジードリンク」でした。エナジードリンクはレッドブルが創出した市場です。新しいもののため、カテゴリーのイメージ作りからマテシッツ氏は始めます。まずエナジードリンクの定義を、栄養ドリンクのような疲れを癒やすために飲むという概念ではなく、スポーツでのパフォーマンスを高めるため、クラブで踊るときにテンションを上げるために飲むというものにしたのです。

 その定義を広める手段として、レッドブルは従来のテレビや雑誌などのマス広告よりも、SNSなどの口コミによるコミュニケーションの活用を重視したプロモーションに目をつけます。

 レッドブルのプロモーションは、スリルや冒険を、「よりエキサイティングに!」というエナジードリンクのキャラクターを確立するため、クラブやバーといった施設でキャンペーンをスタートさせました。ダンサーやミュージシャン、DJを発掘するコンテストなどを開催。出演者や参加者はパフォーマンスの前にエナジードリンクを飲みます。そしてその感想をSNSで発信したのです。これにより、レッドブルは「イケてる飲み物」として若者の間に広まりました。

 もう1つのプロモーション戦略が、エクストリームスポーツへのスポンサー契約です。エクストリームスポーツとは、危険さ・華麗さ・過激さなどの要素を持つスポーツの総称です。レッドブルは、1988年にトレイルラン、パラグライダー、カヤック、マウンテンバイクの4種目をアスリートがチームを組んでリレーするドロミテマンへのスポンサー契約を手始めに、モータースポーツ、ウィンドサーフィンなどへと展開。現在は、空のF1と呼ばれる「エアレース」や、28mの断崖から海に飛び込む「クリフダイビング」など、レッドブルの名を冠する新しいエクストリームスポーツの大会が数多く存在しています。

 メジャーではないエクストリームスポーツのスポンサーを務めているのは、レッドブルに「先駆者」というイメージを根付かせるためです。そのためレッドブルは単なるスポンサーではなく、主催者や選手のバックアップをする協力者という存在であろうとしています。エクストリームスポーツのようなメジャーでないものを、レッドブルが広報を務めることによって世間に広める。才能のある若手を世界的なアスリートへ育成するプログラムを運営するなど。これによりレッドブルは、スポーツファンへ「先駆者」というイメージを定着させました。

 これらの「商品の告知」というメジャーなキャンペーンとはかけ離れたブランド・マーケティング戦略によって、レッドブルは新しいもの好きの若者の心を掴んだのです。

ユーザーを積極的にさせるサンプリングとは

 ところで、街中で巨大なレッドブルの缶を荷台に乗せた宣伝カーが走っている姿を目にしたことはないでしょうか。この車を使ったサンプリングにも、一工夫入ったプロモーション戦略が用意されています。

 宣伝カーは、イベント会場や街頭などでサンプリングを行っています。サンプリングでは女性が缶を渡してくれますが、そのときに彼女たちは「プルトップを開けましょうか」と声をかけます。お願いすると彼女たちは指ではなく、レッドブルのモチーフが飾られている指輪を使って開けてくれます。それを見ていた人は、思わず「その指輪は?」と質問したくなります。指輪はユーザー側からコミュニケーションを取るきっかけなのです。

 通常のサンプリングは配布だけという受動的なプロモーションになりがちですが、これならユーザーと自然に会話が始まります。これらのプロモーション戦略は、社員だけでなく学生によって組織されたスチューデント・ブランド・マネージャーという役職も加わって戦略を練っているそうです。若者や参加者の視点を重視するレッドブルらしい体制の1つといえるでしょう。

差別化と優位性をもたらした先駆者というイメージ

 レッドブルは強豪メーカーがひしめく飲料市場で、「エナジードリンク」という新しいカテゴリーを確立してから30年が経過しています。その30年間の間に新規参入を試みた商品は多くありましたが、いまだにレッドブルが世界市場で高いシェアを維持しています。

 レッドブルのブランド・マーケティング戦略は、新カテゴリーという「差別化」と、先駆者という「優位性」によって成功を掴み、現在もトップブランドというポジショニングを維持しています。この2つを徹底したことで、レッドブルは成功したのです。

【参考書籍】
ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか』日経BP社

このエントリーをはてなブックマークに追加
Evernoteに保存
印刷

連載記事一覧

山下 正之助

山下 正之助

国公立の美大卒業後、大手広告代理店などでクリエイターとして勤務。現在はフリーライターとして活動中。アートに関するキュレーターコラム、ビジネスコラムなど執筆多数。

メルマガ登録


「人材不足」を働き方改革で乗り越える


教育機関向け特集


自治体向け特集

ページトップへ