2017.5.18 (Thu)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第28回)

金鳥が独自展開する、インパクト重視の宣伝戦略とは

posted by 高島 ちなみ

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 日本の夏の風物詩と聞くと、渦巻き型の蚊取り線香を連想する人も多いでしょう。その渦巻き型の蚊取り線香を発売している金鳥といえば、一風変わったコマーシャル(以下CM)広告を打ち出す企業として広く知られています。

 美空ひばりが「金鳥の夏、日本の夏」と歌うCMや、山瀬まみがピンクの河童の被りもので登場するものなどは、視聴者に強いインパクトを残しています。金鳥はなぜ、目を惹きつけるようなCMを数多く打ち出してきたのでしょうか。その宣伝戦略に至った経緯を紹介します。

一番でありたいという思いを込めた商標

 「金鳥」は、殺虫剤・虫除け、家事・掃除用品などの家庭用、業務用製品を展開している会社で、正式な社名は「大日本除虫菊株式会社」といいます。創業者の上山英一郎氏が1890(明治23)年に棒状の蚊取り線香を発売し、1905(明治38)年に会社を設立しました。

 「金鳥」は商標として登録されている同社の赤い鶏のマークが由来です。鶏を商標にしたのは、中国の歴史書『史記』の一節である、「鶏口と為るも牛後と為る無かれ」という故事を創業者の上山が座右の銘にしていたことが起源です。上山はこの故事の「大きな牛の尻尾として生きるより、小さくても鶏の頭になるべき」という意味を、業界の先駆者として「鶏口」になるべき自覚と気概を持ち、その「一番」になる決意を示すために赤い鶏=金鳥を、1910(明治43)年に商標としたのです。

 そこで金鳥が一番になるために打った手は、「CMによる宣伝戦略」です。

CMにクレームがきても謝らない理由とは

 金鳥は、明治時代から新聞各紙に蚊取り線香の広告を掲載し、販売戦略に広告宣伝を早くから取り入れました。ほかにもボンネットトラックを装飾した街頭宣伝、懸賞付きの大売り出し新聞広告などを活発に行っていきます。

 1960年代になりテレビが家庭に普及すると、金鳥の「CMによる宣伝戦略」の原点となるCMが制作されます。それは1966(昭和41)年に制作された殺虫剤キンチョールのCMです。出演者が商品を上下逆に持って「ルーチョンキ」と読み上げるものでした。このCMはナンセンスな言葉遊びによる音のインパクトで反響を呼びます。同時に金鳥は商品名を覚えてもらうためには、CMに強いインパクトを持たせる必要性を確信します。その後は、一流のタレントが社名や商品名を歌う、奇抜なパフォーマンスをするなどのインパクトのあるCMが制作され、商品名や広告デザインもインパクト重視の展開になります。

 斬新なCMで消費者との距離を縮めてきた金鳥ですが、インパクトが強いものには不快感を抱く人もあらわれ、クレームを呈されることもあります。しかし広告を企画している宣伝部は「CMに対するクレームがきても、絶対に謝らない」というポリシーを持っています。

 CMは商品をよりたくさん売るために、宣伝部が真摯に企画したものです。しかしその裏で誰かがCMの「謝罪」をしていると思うと、CMづくりに躊躇が生まれてしまうからです。またCM制作の際に、経営陣は事前チェックを行なっていません。大勢が意見を述べると、マイナス面を避ける判断が強くなり、インパクトの少ない凡庸なCMにまとまってしまうと考えているからです。

 商品づくりからマーケティングまで、自信を持って自由に行う。この一貫した姿勢が、金鳥がCMによって発展できた理由なのかもしれません。

 その裏には、創業期から効果の高い新たな殺虫成分を求めて研究を続けてきたという裏付けがあるから可能な宣伝戦略だったともいえます。

インパクトの裏にある確かな商品

 CMで認知度を高めた金鳥ですが、同社のスローガンは「昔も今も品質一番」です。殺虫剤など身近にある日用品の販売は、高級感や洗練されたイメージを膨らませるのではなく、実用性の認知向上が大切です。まず一人でも多くの人に商品への関心を持ってもらい購入のきっかけを作ることを追求した結果、インパクトのあるCMにたどり着いたのです。

 しかしCMのインパクトで商品購入に至っても実用性が伴わなければ、商品をもう一度購入してもらえることはありません。インパクトのあるCMを作れるのは、金鳥が品質に自信を持っているからです。品質に自信を持っているのは、効果の高い新たな殺虫成分のこだわった研究を創業時から続けているからです。

 このこだわりは、国内だけでなく海外への開時にもしっかり息づいています。金鳥は中国やタイなどのアジア圏への輸出に取り組んでいます。アジア圏ではマラリアやデング熱などの健康被害に悩まされている国があり、金鳥はそれらの国へ害虫駆除製品を供給しているのです。

 害虫駆除製品は、海外で商品を展開する際、消費者だけではなく「自然」という現地の環境に向き合う必要があります。日本国内の商品をそのまま売ったり、小手先で改良したりするだけでは、実用性や効果が期待できません。しかし、いざ現地に適合しようとすれば、研究費や開発費は膨大になり、見合った業績になるかという確証はありません。

 それでも金鳥は、あえてその課題にチャレンジしてきました。タイに進出した際は、現地大学との共同研究を重ねて、商品を開発しています。こうした研究に裏付けられた商品が、中国やタイでの健康被害や暮らしの悩みの解決に役立っているのです。

 研究に基づいた効果のある「商品づくり」を行ってきたこだわりがあるからこそ、グローバルでも地域に根付いたブランド展開を行えるのです。金鳥の商品はCMのキャッチコピー「金鳥の夏、日本の夏」で日本の消費者に定着してきまたが、今度は品質一番の商品で「金鳥の夏、世界の夏」と世界の消費者に呼ばれる日がくるかもしれません。

※ 掲載している情報は、記事執筆時点(2017年4月24日)のものです。

【参考文献】

『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?』金鳥宣伝部/ダイヤモンド社/2015年
『KINCHO‐STYLE キンチョウスタイル―素晴らしき金鳥CMの世界』CM発掘調査隊/幻冬舎コミックス/2005年

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高島 ちなみ

高島 ちなみ

フリーライター。2012年より執筆活動を開始し、ビジネスコラム・グルメレポートなどを執筆。無類の図書館好き。趣味が高じて司書資格も取得。ライブラリアン・検索技術者として、WEB媒体向けのレファレンス支援も行う。

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