2017.1.20 (Fri)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第18回)

「低スペック」は武器になる、弱小温泉の非常識改革

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 長野県千曲市、商圏人口わずか30万人以下の小さな町に、人気の温泉施設があります。その名は「万葉超音波温泉」。創業50年を超える温泉施設です。

 わずか150坪の建物内にあるのは、数種類の温泉と簡単な休憩所のみ。今時のスーパー銭湯のような目新しさは一切ありません。おまけに近隣には同規模の温泉施設が5つもあり、以前は客足がそちらへ流れる一方だったといいます。

 この状況から抜け出すため、同温泉はある大胆な改革に打って出ました。

「湯船で遊んではダメ」「騒いではいけない」という常識を覆す

 温泉施設の集客方法を考える場合、常套手段としては、“癒し”や“リラックス”といったワードをコンセプトにしたり、静かで落ち着いた空間づくりを目指す、といったような手段が考えられます。

 しかし万葉超音波温泉のような、規模が小さく、かつ競合店が複数ある施設の場合、誰もが考える“普通”という土俵で戦っていては勝ち目はありません。小さな施設だからこそ、他の施設にはできない土俵で戦う必要があったのです。

 そこで取り組んだのは、ターゲットの徹底的な絞り込みでした。これまで同施設を支えていたのは、施設の雰囲気を愛する一部のマニア客でしたが、ターゲットを既存客からファミリー客へと切り替え、新たな土俵で戦うことにしたのです。

 たとえば、これまで既存客に好評だった高温風呂は、子供でも入りやすい39℃のぬるま湯に変更しました。さらに、湯舟にオモチャを浮かせた子供専用風呂もつくりました。湯舟で遊んではいけないという温泉の常識を覆し、子供が大騒ぎできる温泉へとコンセプトを一新したのです。

 こうした取り組みが功を奏し、夏休み期間中、集中的に行った家族向けプロジェクトでは、昨年同期比で110%増という好成績を叩き出しました。

 その一方で、ターゲットを一気に切り替えたことにより、既存客からクレームの声があがりました。中には、子供専用風呂のオモチャを全て浴槽の外へよけてしまう人もいたといいます。

 しかし同温泉は、クレームが出てもなお、元に戻すことはしませんでした。納得してもらえないなら、既存客が他の店へ行ってしまっても仕方がない、と腹をくくったのです。結果的に、ファミリーに狙いを定めた取り組みは引き続き評判となり、売り上げや顧客数は減ることなく、増加し続けました。

 そして、自分たちの頑張りが顧客に喜ばれていることを実感した従業員にも変化が見られるようになりました。はじめは改革に否定的だった従業員が、自らイベントの企画を発案したり、顧客とのコミュニケーションを積極的に行うようになったり、以前に比べて笑顔で働く従業員が増えたといいます。

 この変化にいち早く反応したのは、なんと一度は離れかけた既存客でした。「前よりも雰囲気が良くなった」「別の店へ来たようだ」と、再び店へ戻ってきたのです。

大規模店舗にはできない、小規模施設ならではの“武器”とは?

 同温泉はさらに、自らの「武器」に磨きをかけます。

 繰り返しになりますが、同施設はわずか150坪の小さな温泉施設です。併設施設も簡単な休憩場とキッズコーナーだけで、競合店にハード面で勝つことは難しい状況です。普通であればマイナス面と捉えがちな施設の簡素さを、同温泉はあえて武器にする戦略に出ます。それが、競合店がどこもオープンしていない、早朝の「午前4時」から店を開けるというチャレンジです。

 同施設は併設施設がないため、スタッフが少なく、シフトやオペレーションがシンプルです。そのため、ニーズに応じ、臨機応変な営業ができるのです。一方で、スーパー銭湯のような大規模施設の場合、飲食店やマッサージ店などを併設することで客単価を上げることはできますが、その分人件費がかかります。また、スタッフが増えるにつれて、臨機応変な営業も困難になります。

 既存の時間帯で勝てないのなら、競合店がまだ営業していない時間の顧客を獲得すればいい。こうした逆転の発想が、同施設に、“午前4時から入れる温泉”という唯一無二の武器をもたらし、新たな収益客を増やすことになったのです

 もしも同温泉が「地域ナンバーワン」の店舗を目指していたとしたら、ここまでのV字回復はできていなかったかもしれません。施設の小ささは、一見すると「低スペック」というデメリットに思われがちですが、大手にはできない、ニッチな市場を狙うためにはむしろ好都合だったのです。

 万葉超音波温泉の挑戦からは、一般的な土俵ではなく、“自分たちの土俵”を正しく見極めてビジネスを行うことの重要性が学び取れます。

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