2016.2.1 (Mon)

ビジネスマガジン(第9回)

お客さま像を描いて自社をブランディングする

posted by 渡邉 学

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前回は、経営資源に限りがある中小企業はニッチ市場にこそ活路があることを取り上げました。マス商品(大量生産商品)やマスサービスでは対応しきれない多様な消費者ニーズに対し、その隙間を埋めることができる市場を見出す、または創り出すということです。今回はそのニッチ市場を探し出す方法と、その先にいる顧客に訴求する重要性をご説明します。

市場を顧客ニーズで細分化する

M社は小さな国産自動車メーカーです。中古車販売業からスタートした同社は、「独創的なクルマに乗る喜びを感じる人」に焦点をあてた開発を行い、クラフトマンと呼ばれる職人が手作業で制作、完全受注生産しています。このように他の自動車メーカーでは真似のできない商品、サービスが熱狂的なファンに愛され、国内はもとより世界中から注目されています。このように52兆円あまりの国内自動車産業にあって、M社のシェアはわずか0.06%ですが、ニッチ市場でM社が存続できる売上を獲得しています。
さて、ニッチ市場は闇雲に探して容易に見つかるものではありません。市場を一定のルールに基づいて小分け(市場細分化またはセグメンテーション)し、そのセグメントの中で大手が参入しておらず、自社に適合する市場を探します。市場を細分化する切り口の代表例は以下となりますが、ポイントは顧客のニーズを踏まえて細分化することです。

市場細分化の代表的な切り口(顧客ニーズの違い)
(1)地理的区分:地域や気候、人口密度など
(2)人口統計的区分:年齢、性別、所得、職業など
(3)心理的区分:消費者の価値観やライフスタイルなど
(4)その他:サービス重視、ブランド重視など

それでは実際に、ある飲食店が選んだセグメントをこれらの切り口で整理してみます。
(1)地理的区分:都心部(オフィスビル街)
(2)人口統計的区分:オフィスビル街で働く人々(20~60歳台の男女)
(3)ライフスタイル:昼食は外食が多い、12時頃に昼食を取ることが多い
(4)その他:待ち時間を短縮したい、味を重視する、スマートフォンを活用できる

この飲食店は、前回のコラム(2014年11月4日配信)で紹介された【事例1】のA店です。A店が絞り込んだセグメントが、よく分かります。もしこの切り口の要素の一つである【ライフスタイル】が「食事時間は自由に設定できる」であれば、そこには「混雑時に待ち時間なしに食事がしたい」というニーズは存在しないため、「スマートフォンで予約を受け付ける」A店サービスはマッチしません。

自社の強みが活かせる(価値創造できる)市場を標的にする

A店のように、セグメントされた市場から自社が標的とするニッチ市場を絞り込むことをターゲティングといいます。その際は、自社の経営資源でビジネス展開できるか、細分化されたセグメントが市場として成立するか等、市場の有効性の評価も重要です。具体的には、次の項目を考慮して検討します。
(1)市場の規模や将来性…どの程度の売上規模が確保できるか
(2)市場の収益性…その市場で利益が確保できるか
(3)自社の経営資源(シーズ)との適合性…そのセグメントに参入するための経営資源は備わっているか

さて、ここでニーズには「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があることを理解しておく必要があります。顕在とはすでに在るモノで、潜在とは今はないがそうなる可能性があるものです。これまでにない商品・サービスを提供するとき、当然それはまだ知られていないので必要とする人はおらず、顕在ニーズはゼロです。しかし、それらが世に出ることで使ってみたいと思う人々が現れます。これを潜在ニーズといいます。市場を細分化する過程で潜在ニーズを発掘することがありますが、もし潜在ニーズが存在するセグメントに対してターゲティングすることができれば、そのセグメントに対しては先駆者となることができるため、シェアを獲得することができるのです。

具体的にイメージするお客さま像がやるべきことを教えてくれる

シェアの獲得を可能とするのは、そのセグメント内で優位性の高い商品やサービスを提供することで、顧客が自社商品・サービスと他社のそれを識別し、優先的に選択するようになるからです。これをブランド化する(ブランディング)といいます。ブランディングができれば、顧客の愛顧(ロイヤルティ)を獲得し、価格競争を回避することができます。逆にブランディングができなければ、同業他社の参入に対して価格で対抗せざるを得なくなります。ターゲティングにおいては、ブランディングの可否を視野に入れておくことも重要です。
ブランディングにおいて意識するのが「ペルソナ」です。ペルソナとは、ターゲットとする市場の核となる人物像のことで、まるでその人が実在するかのように、そのプロフィールを描き出したものです。市場に投入する商品・サービスを使う人を具体的にイメージします。例えば「男性、45歳、身長175cm、家族は妻・娘2人、近郊のベッドタウン在住、マイホームのローン返済中、都心に電車通勤、買い物はA百貨店、趣味は海釣り」等々。このように細かく設定し、人物像の理解を深めることで、商品・サービスの完成度を向上させることができます。
ペルソナは、商品・サービスの開発だけでなく、その他のマーケティング活動においても有効に機能し、ブランディングを促進します。
プロモーション(販売促進)は、テレビや新聞などのマス広告を利用すると、一見大きな効果があるように見えますが、実は本当に見てもらいたい人には届いていないことが多いのです。そのうえ莫大な費用がかかり、ニッチ市場を狙う中小企業向けとはいえません。そこでペルソナを意識して、そのペルソナに確実に届くプロモーションを選択します。
効果的な宣伝媒体として、インターネットを使ったプロモーションは欠かせません。さまざまな手法がある中で、商品・サービスに関するコンテンツ(ホームページやブログ、SNS など)を「どのユーザー層(who)」に「何を作り(what)」、「どうやって届ける(how)」か。これらを一連の流れとして設計することで、最低限のコストで大きなプロモーション効果を得ることができます。

中小企業は、自社がターゲティングしたニッチ市場に、自社の売上が獲得できるニーズ(顕在・潜在)があることを読み取り、そこに存在する顧客層に確実にアプローチし、その顧客層の愛顧を得るためのブランディング努力が求められます。

次回は選択したセグメントにおいて競争優位性を発揮するためのヒントについて説明します。

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渡邉 学

渡邉 学

中小企業診断士。製造業に勤務し、品質管理・生産技術などを経て、中小製造業の工場長としてマネジメントに従事。自ら中小企業にて蓄積した実体験を活かし、企業密着型のコンサルティングを行う。

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