2016.2.1 (Mon)

経営者をトラブルから守る法律知識と手続き(第5回)

事業の拡張・転換、どのようにやりますか

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 事業の多面展開、方向転換に際して新会社を設立しようとしたり、個人事業主を営まれてきた方々が「法人化しよう」とした場合、法人設立については、会社法の施行後いくつもの選択肢ができ、それぞれ目的にあった有利なものを選ぶことができるようになっています。
 すでに法人化して長い方も、これからの飛躍を期している方々も、今回はそうした企業形態の選択肢について知ってみましょう。

※採用するテキストは『起業するならこの一冊』(自由国民社)

目的にあった形態を選択しよう

 起業の形態を考えるとき、まず考えるのは個人事業主としてスタートするか、株式会社などの法人を設立してスタートするかということです。さらには「組合」という組織形態もあります。
 個人事業主とは、読んで字のごとく経営者が個人として事業を行うことです。税務署に開業届さえ出せば事業主となります。法人に比べて簡単に始められるというメリットがあります。
 これに対して、法人とは設立登記など一定の手続きにより法人格を得て事業を行うものです。設立後も様々な届出等が必要になります。また手続きを全て自分で行ったとしても、定款認証や登記などの際に一定の費用がかかります。
 しかしそれらの手間と費用の引き替えに、法人は個人に比べて様々なメリットを持っています。

法人で始めることのメリット
 ①社会的信用力が高い
 ②有限責任で済む
 ③法人税の方が税率が低い
 ④出資者を募ることができる
 ⑤経営者としてのノウ八ウを早期に習得しやすい

個人と法人の違い

  個人事業 会社
資本金 資本金は必要ない。 資本金額の規制はない。
設立手続き 特になし。 銀行へ出資金を払い込んだ後、法務局で登記申請をする。
資金調達 「出資」という考えがない。資金は融資を受けるのみ。個人事業主に融資する公的融資制度あり(国民生活金融公庫など)。 出資を受ける、金融機関などから融資を受けるのが大半、その他、社債発行などもある。
責任範囲 事業を廃止しても無制限に負う。 株式会社や合同会社は出資金額の範囲で責任を負う。ただし個人保証をする場合は、無制限に負うことになる。合資会社の場合は、上記にかかわらず無制限に負う。
会計処理 青色申告でも簡易帳簿で申告できるので個人でも簡単にできる。 複式簿記による記載が必要であり、簿記の知識が必要。事業の規模によっては、専門家に委託した方が良い。
税金の計算方式 一部の所得控除を除いてすべての所得を対象として、課税される。 会社の売上に対する利益額を算出し、その後、税額控除もしくは課税対象となる金額を加減して出す。
交際費 原則的にすべての交際費は損金となる。 交際費は一定額を超えると費用として認められない。資本金の金額に応じて損金として課税控除される金額がきまっている。
給与 白色申告の場合は専従者1人につき50万円、青色申告の場合は専従者の給与全額を必要経費に参入できる。 役員に対する報酬、退職金は不当に高くなけれぱ全額損金となるが、役員賞与は損金算入されない。
住民税 都道府県民税と市町村民税がある。総所得金額等によって決まる所得割と自治体によって異なる均等割がある。 都道府県民税と市町村民税がある。また上記法人税割の他に、均等割の税がある。
事業税 事業主控除後、事業所得金額に対して課税される。 課税所得額や資本金の額によって異なる。

自分のやりたいことにあった組織を

 個人で活動することで当初、最も苦労するのは営業面だろうと思われます。全くの新規営業となると個人ではなかなか信用してもらえません。設立のためのハードルは低くなったとはいえ、会社としてきちんとして登記している法人の方が先方の理解を得やすいのです。
 法人には一般的な株式会社だけでなく、後述する「合同会社(LLC)」「NPO法人」や「一般社団法人・一般財団法人」があります。さらに法人ではありませんが「企業組合」「有限責任事業組合(LLP)」といった組織形態もあります。自分のやりたいことにあった形態を選択することができるのです。
 例えば友人などと専門家集団を作って対等な形で運営していきたい場合などは、企業組合、LLP、LLCといった形態が向いています。また、成長重視で早期にマネジメントの体制も整えたいと考えるのならば、株式会社を選択するのがよいと思います。税金面などの副次的な要素も大切ですが、まずは純粋に自分のやりたいことに合った会社形態を考えてみましょう。

会社等の設立件数(2009年)

起業形態は圧倒的に株式会社が多くなっています。

株式会社 79,902
組合及びその他の法人 6,379
合同会社 5,771
有限責任事業組合 637
一般社団・財団法人 2,933

合同会社は、共同研究、ベンチャーキャピタルなどで活用できる

 ここからは制度として、比較的新しく、耳慣れない人もいるであろう諸形態をご紹介してゆきます。まずは合同会社。
 合同会社とは、会社法で新たに設立が認められた持分会社です。米国で既に普及しているLLC(:Limited Liability Company)にちなんで日本版LLCとも呼ばれています。
 これまでの持分会社では、合名・合資会社ともに無限責任社員が存在していたのに対して、合同会社では全員が有限責任社員で構成されています。
 このように合同会社は合名・合資会社の持つ自由な内部自治と、株式会社の持つ有限責任性を同時に実現しています。
 また、合同会社では、定款に定めれば出資金の比率に関係なく利益の分配比率を自由に決めることができます。これによって出資比率が小さくても会社への貢献度合いが高かった社員に出資比率以上の利益を配当することが可能になります。
 LLC先進国である米国では、合同会社は、自由な内部自治と社員の有限責任というメリットを活かし、共同研究、ベンチャーキャピタルなどに活用されています。
 合同会社は株式会社に較べて、設立の手続きが簡素で、設立費用も抑えることができます。そのため人的に関係の深い出資者が集まって、事業を開始したいといった、従来であれば有限会社設立を選択していた人達が合同会社を活用することも考えられます。

短期的・プロジエクト的な事業で活用できる有限責任事業組合

 有限責任事業組合(LLP:Limited Liability Partnership)とは、会社法ではなく有限責任事業組合契約法で定められた組織形態です。
 構成員は全員有限責任です。また法人格はなく、あくまでパートナーシップということから短期的・プロジェクト的な事業、参加者個々が既に持つ属人的能力を発揮しやすい事業に向いています。
 有限責任事業組合の構成員は、配当を受けることができますが、報酬(給料)をもらうことはできません。したがって、本業が別にあって副業や新規事業を行う際に向いている組織形態とも言えます。
 LLP設立にあたっては株式会社などと違い、定款認証の手続きは必要ありません。設立に関する時間と手間が省けるのが特徴です。また出資金額の下限はなく、組合員2名以上で設立が可能となります。
 LLPは組織設計が柔軟にできるため、機動的な事業展開が期待できます。具体的な活用例としては、①高度専門サービスの複合事業(弁護士+税理士+経営コンサルタントの集合体など)、②ジョイントベンチャー(大企業の資本力とベンチャー企業の技術力の連携)、③産学連携(大手メーカーと大学技術者との連携)などが考えられます。

合同会社 と有限責任事業組合の違い

 合同会社(LLC)と有限責任事業組合(LLP)の最も大きな違いは、前者には法人格があるが、後者にはそれがない点です。
 そのため、合同会社はまず法人として課税され、さらに構成員には所得税もかかることになります。一方、有限責任事業組合は法人格がないため、法人税がかからず構成員へ直接課税される「パス・スルー課税」が適用されます。
 なお、合同会社では出資者は配当も報酬(給料)も受け取ることができますが、有限責任事業組合の場合は配当のみ可で報酬を受け取ることはできません。
 なお、合同会社は途中で株式会社に組織変更することができますが、有限責任事業組合の場合はそれができません。
 このため両者の使い分けについては、合同会社は株式会社化も見据えた継続的な事業に、有限責任事業組合は短期的・プロジェクト的な事業に向いています。

独立志向型のメンバーが集まって自由に事業を行うのに向いている企業組合

 企業組合は中小企業協同組合法で定められた組合法人のひとつで、仲間が集まってひとつの企業のように活動できる組合です。各自が組合員となって資本と労働を持ち寄り、自らの働く場を創造するための組織です。通常の会社のようなピラミッド構造ではなく、独立志向型のメンバーが集まって自由に事業を行うのに向いています。
 企業組合には、これまで企業などの法人は出資できませんでしたが、中小企業挑戦支援法の施行によって、企業や投資事業有限責任組合の出資も認められるようになりました。これによって、個人レベルでは調達できなかった資金や技術などを取り入れることが可能になり、事業の可能性が大きく広がりました。
 企業組合のメリットとしては以下のような点があげられます。

①自らが事業開始にあたって必要と判断する資金で始められる。
②それぞれの出資額を限度とした有限責任制が適用される。
③株式会社の株主とは異なり、出資額の多い少ないに関係なく、議決権が平等に与えられるため、民主的な運営が確保される。
④NPO法人と異なり出資者である組合員に配当を行うことができる。
⑤助成金などの公的支援が受けやすい。

 企業組合を設立するためのハードルとして、「都道府県の認可が必要であること」があげられますが、国が積極的に設立を後押ししているということもあり、スムーズに認可されることが多いようです。メリットの⑤であげた公的支援が受けやすいのは、この都道府県の認可を受けていることから来ています。
 また企業組合設立後、環境の変化などによって組織形態を変更したい場合は、組合員の3分の2以上の議決を持って、株式会社に組織変更することができます。
 このように企業組合は会社のように出資者と従業員という関係ではなく参加者が独立した形で資本・労働を持ち寄って働く場を作るという点が特徴です。対等な関係で信頼できる仲間を集めることができれば、起業の際の有力な選択肢のひとつとなります。

企業組合とLLPの違い

  企業組合 LLP
資本金 小資金でも可能。 小資金でも可能。
設立手続き 認可が必要なため、事業計画、事業内容、役員などについて行政庁への提出が必要。その後、出資払込を経て登記を行う。 組合契約を作成した後、出資払込を経て登記を行う。
資金調達 出資を受ける、または金融機関などから融資を受ける。 出資を受ける、または金融機関などから融資を受ける。
責任範囲 出資範囲内で責任を負う。 出資範囲内で責任を負う。
会計処理 複式簿記による記載が必要であり、簿記の知識が必要。事業の規模によっては、専門家に委託したほうがよい。 複式簿記による記載が必要であり、簿記の知識が必要。事業の規模によっては、専門家に委託したほうがよい。
税金 所得税と地方税が課される。一部非課税枠もある。 構成員課税が適用される。
税金の計算方式 「会社」と同じ。 LLPに対する課税はなく、個々の出資者ごとに出資比率に応じて課税される。
交際費 「会社」と同じ。 「会社」と同じ。
給与 「会社」と同じ。 組合員は報酬を得ることができない。雇用した従業員に支払う給与は全額損金となる。
住民税 「会社」と同じ。 LLPに対する課税はない。
事業税 「会社」と同じ。 LLPに対する課税はない。

ボランティア組織を法人化する場合に活用できるNPO法人

 NPOとは「Non Profit Organization」の略で、非営利組織と訳されています。様々なボランティア組織がこれに該当しますが、このうちNPO法に基づいて法人格を取得した団体のことをNPO法人と言います。
 法人を設立するということでは有効な選択肢のひとつですが、そもそもの目的はあくまで社会貢献にありますので、儲けるための起業には不向きかもしれません。「ずっと地域のボランティア活動をやってきたが、定年退職を機会に本格的に社会貢献に取り組みたい」といった人に向いているやり方です。

企業組合とNPO法人の違い

  企業組合 NPO法人
目的 働く場の確保、運営の合理化。 特定非営利活動推進による公益の増進。
性格 人的結合体。 人的結合体。
設立要件 4人以上の個人。 10人以上の社員(会員)。
責任 有限責任。 有限責任。
発起人数 4人以上。 1人以上。
加入 自由。 定款の定めによる。
脱退 自由。 自由。
議決権 平等(1人1票)
特定組合員の議決権数は全体の1/4未満。
平等(1人1票)
(定款で変更可)。
配当 従事分量配当及び2割までの出資配当。 できない。

まとめ

 以上のように、企業の形態にも様々な選択肢があることがお分かりになったかと思います。選択肢の幅はございますが、選択のポイントとしては、どのような目的・体制で事業を運営されていくかが重要であることをご理解いただければと思います。

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