2019.5.27 (Mon)

自治体の被災者支援(第2回)

特別インタビュー:被災した現場にもICTは不可欠

posted by 津田 浩司

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 地震や洪水、火山噴火など、自然災害は毎年のように日本列島を襲ってくる。災害にいかに備えるかは、自治体関係者にとって大きなテーマだ。発災後、被災地域は混乱し、住民をサポートする自治体職員には休む暇もない――。そのような光景がこれまで繰り返されてきた。職員がより重要な業務に集中できるような環境をつくる上で、ICTの役割は大きい。

 「普段の生活でも同じですが、被災した現場にもICTは不可欠です」と語るのは、被災地のICT活用に詳しい大妻女子大学教授の干川剛史氏である。干川氏はこれまでさまざまな自然災害の現場に身を置き、情報環境づくりなどのボランティアを経験してきた。また、災害情報研究や地域再生・連携を考察する社会学者としての視点で、多くの被災自治体の状況について調査研究を重ねている。

 「初めてボランティアとして現地に入ったのは、1995年の阪神・淡路大震災のときです。当時は徳島大学の教員だったのですが、研究室で使用していたパソコンを持参して淡路島のボランティアセンターを訪れました。通信はダイヤルアップ接続。その当時から比べると、現在の情報環境は驚くほど良くなりました」と干川氏は振り返る。

 通信インフラは高速化し、スマートフォンなどの便利なデバイスも登場した。災害対策用のシステムも増え、それぞれが被災者や自治体職員などの声を生かしながら進化を続けている。

 例えば、気象庁は気象警報や注意報、危険度分布などの各種情報を地図付きで提供している。また、国土交通省や都道府県の水位計などの情報もインターネット経由で参照することができる。

大妻女子大学 人間関係学部 教授
大妻女子大学大学院 人間文化研究科 教授
総務省 地域情報化アドバイザー
干川 剛史 氏

 「自治体の担当職員は多様な情報を見て、迅速な避難勧告などに生かすことができます。情報が増えたこと自体は前進ですが、あまりに情報が多過ぎると担当職員の手に余るような事態も起こりがちです。各種情報をいかに統合して総合的な判断、適切な行動につなげるかが今後の課題だと思います」と干川氏は提言する。

 

 

システム化が進む、り災証明書の交付

 気象庁などのシステムは、どちらかというと防災面にフォーカスしたものだ。他方、発災後の被災者支援のためのシステムを導入する自治体も増えている。災害が起きれば、避難所での生活を余儀なくされる住民もいる。こうした被災者の暮らしや生活再建を支援する上で、ICTが役立つ場面は少なくない。

 「被災者支援の分野で最も導入が進んでいるのは、おそらくり災証明書を交付するためのシステムでしょう。日本で本格的なり災証明書交付システムが生まれたのは、阪神・淡路大震災のときでした。その後、被災者支援のための機能の幅が広がり、より効率的なシステムに進化しています」と干川氏は話す。

 被災者がさまざまな支援を受ける上でり災証明書は非常に重要だ。生活再建を目指す被災者に適切なサポートを提供するため、自治体の業務の中でもり災証明書交付業務の優先度は高い。

 災害の規模によるが、自治体の窓口には多くの被災者が列をなすことも考えられる。待ち時間を短くするためには、業務の効率性やスピードが重要。また、人的ミスを最小化するという観点でも、この分野でいち早くシステム化が進んだのは自然なことだろう。

 り災証明書交付をシステム化する動きは全国的に広がってきた。1つのきっかけは、2013年に行われた災害対策基本法の一部改正だろう。

<市町村によっては、罹災証明書の発行の前提となる住家被害調査の実施体制が十分でなかったことから、東日本大震災に際しては、罹災証明書の交付に長期間を要し、結果として被災者支援の実施そのものに遅れが生じた事例も少なくなかった>
(内閣府ホームページ「防災情報のページ」より)

 こうした認識から、災害対策基本法の中では市町村長は被災者からの申請に対して、遅滞なく被害状況を調査しり災証明書を交付しなければならないと定められた。

いざというときに備えた準備が大切

 国内では、被災者を支援するシステムが存在している。干川氏が触れたように、システムは搭載機能を増やし、自治体職員の各種業務を下支えしている。その機能として、り災証明書の交付だけでなく、防災設備や被害状況の管理機能、建物被害の認定機能、被災台帳管理機能などがある。また、他のシステムと連携することで、より利便性の高いサービスを提供している被災者支援システムもある。

 こうしたシステムを導入する際、注意したいのがICTインフラである。災害対応に特化したシステムは、平時にはほとんど使われない場合が多い。「庁内に置いた小規模なサーバーでは、いざというときにアクセスが集中して処理しきれないこともあるでしょう。拡張性の高いクラウドを活用するのも一案だと思います。あるいは、国のレベルで何らかの対策を講じるという方向性も考えられるかもしれません」(干川氏)

 繰り返しになるが、被災者支援システムなどのツールを使いこなすには、人材育成を含めた多方面での取り組みが必要になる。干川氏は次のように語る。

 「万一のときに万全の災害対応を可能にするには、日ごろからのトレーニングが欠かせません。しかし、実際には災害が起きてからシステムの使い方を学ぶというケースも多いようです。災害時に備えた訓練を充実させるとともに、専門知識の蓄積に向けた取り組みも強化すべきでしょう」

 トレーニングをメニューとして提供しているICTサービスもあるので、事前に情報収集しておくとよいだろう。

 ただ、小規模な自治体に多くを要求するのは酷かもしれない。「国や都道府県はどのような形で市町村を支援すべきか、改めて考える必要があると思います」と干川氏。災害対策、災害対応をよりよいものにするために、官民がそれぞれの持ち場で一層の工夫を重ねる必要がありそうだ。

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津田 浩司

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