生き残る大学となるために(第3回)

大学の大競争時代。ICTソリューション潮流

posted by 山口 学

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 現在、私立大学の約4割が、定員割れの状態です。大学間の競争は今後一層加速すると見込まれます。大学はさまざまな経営努力を続けなければ、従来と同程度の学生を集める「現状維持」ですら難しくなる経営環境だといえます。

 一般的に、経済状況が悪化すると私立大学よりも国公立大学を志望する人が増え、就職に有利な学部・学科に志願者が集まります。環境変化に対応する経営努力には、大きく2つの方向性があります。それは、「魅力的な環境の整備」と「運営に必要な事務作業の効率化」です。そして、このどちらにも効果を発揮するのがICT化です。

ICT化を含む経営努力がなければ「現状維持」も難しい

 「魅力的な環境の整備」を実現する方策は、特色ある学部・学科の設置やカリキュラムの策定、学生が授業に能動的に参加するアクティブラーニングの導入などの先進的な教育環境の整備が挙げられます。それらに加えて重要な施策の1つとなるのが、ICTソリューションの導入です。

 教育の質を高めるICTソリューションには、LMS(学習管理システム)や図書館システム、講義収録・配信システムなどが挙げられます。LMSは学生に向けた講義や履修に関する情報発信だけでなく、教員や教務スタッフと情報を共有するコミュニケーションツールとして最適です。講義収録・配信システムはアクティブラーニングやMOOC(大規模公開オンライン講座)の開催、社会人向けのリカレント教育の実現に欠かせない基盤となります。

 ソフトウエアだけでなく、ハードウエア面の増強も必要になります。文部科学省の学術情報基盤実態調査(平成29年度)によると、キャンパスの無線LAN環境はすでに9割以上の大学が整備していますが、学生や教員がパソコン、スマートフォン、タブレットなど複数のデバイスを持ち歩くのが普通です。接続するデバイスの数は今後も増えていきますから、通信速度や同時接続数などを向上させていかなければ、快適なインターネット環境を提供できなくなります。

積極的なICT活用は大学運営の効率化にも効果的

 学生や教員向けに魅力的な教育環境を提供する以外にも、ICTを活用すべき領域があります。それが「運営に必要な事務作業の効率化」です。近年では、学生や保護者に対するサービスレベルの向上が強く求められます。それ以外にも、学外の関係者や協力企業とのやりとりの業務量が増加して、職員の業務負荷が上がっています。大学経営の安定には、事務作業の業務効率化や生産性向上を行って手間をできるだけ圧縮し、人間でなければ担えない業務へ人的リソースを配分する取り組みが不可欠です。

 そうした業務改革には、一般企業で行われる業務管理の手法の適用が役立ちます。それに加え、さまざまな業務・業種を支援するICTソリューションの導入も威力を発揮します。例えば、最も基本的な事務業務といえる財務会計、人事、給与。一般企業向けのソリューションの利用もできますが、教育機関専用のものもあります。特有の業務が多い場合には、教育機関向けのものを選択すれば、カスタマイズの負荷が減らせます。入試手続、学籍管理、教務管理、成績管理、保健管理といった、一般企業とは異なる教育機関特有の業務向けには、専用のソリューションが提供されています。

 現在ではOCR(光学的文字認識)の精度向上や、AI(人工知能)の採用などにより、これまで紙の書類を手作業で処理していた業務をデジタル化・自動化するソリューションも登場しています。今後は、単純な定形業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を適用できる領域も広がると予想されます。そうしたソリューションを積極的に活用すれば、業務効率化は進みます。

 情報システム基盤の見直しも効果的です。文部科学省の学術情報基盤実態調査によると、すでに8割以上の大学がクラウドを利用していますが、その多くは電子メールやウェブサイトなどの「管理運営基盤」としての利用にとどまる大学も少なくはないようです。eラーニングや遠隔講義などの「教育・学習基盤」としての利用は約6割になりますが、研究データ管理や高性能計算機などの「研究基盤」としては2割弱の大学しかクラウドを利用していません。こうした領域でもクラウドへの切り替えを進めれば、コスト削減だけでなく利便性やサービスの向上が期待できるでしょう。

 成績や健康状態、就職活動など機微な情報を扱うだけに、セキュリティの強化も課題です。インターネットとの接続点から、サーバー、データセンター、クラウド、パソコンやスマートフォンまで、高いセキュリティレベルが求められるのは言うまでもありません。セキュリティレベルを上げれば、たいてい管理・運用は難解になります。その2つを両立させるには、統合管理ソリューションの導入も検討に値します。さらには、機密性の高い情報へのアクセス権限の管理には、IDカードによる入退室やシングルサインオンに対応した認証システムの整備も求められます。たった一度の情報漏洩事件で、ブランド力は激減します。失ったブランド力を復活させるのは並大抵ではありません。

 いまや、学生や保護者が入学を志望する大学を評価するポイントは、教員や学部・学科、カリキュラムの魅力だけではありません。ICTソリューションの選択と活用、それをサポートするベンダーなどのパートナー選びは、これまで以上に重要な要素になっていくでしょう。

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山口 学

山口 学

1954年東京生まれ。14年間をアプリケーション・ソフトウエア開発エンジニアとして過ごし、1990年にフリーランス・ライターとして独立。IT分野の書籍・雑誌記事執筆とウェブコンテンツ制作に携わる。

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