企業のデジタルシフト(第7回)

いま選ぶなら、AWS? Microsoft Azure?

posted by 山口 学

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 米国が、世界に先駆けて「クラウドファースト」を発表したのは2010年のことでした。柔軟性や俊敏性の高いクラウドコンピューティング技術を活用してシステムの効率化とコストの最小化を図るこの取り組みは、その後世界中の企業・団体に広まりました。

 現在では、それまでICT基盤の主役だったオンプレミス(社内設置型)サーバーの利用範囲は徐々に狭まりつつあります。日本においても、2018年に総務省が行った調査「平成30年通信利用動向調査の結果(概要)」によると、調査対象企業の58.7%が何らかの形でクラウドサービスを利用しています。また、33.1%の企業については「全社的に利用している」と回答しています。

3つのクラウドサービスと3つの利用形態

 ただ、一口にクラウドといっても、提供されるサービスの内容と利用形態にはいくつかの種類が存在します。例えば、最も基本的なクラウドサービスである「IaaS(Infrastructure as a Service)」の場合、利用者に提供されるのは仮想マシンと仮想ストレージのみです。アプリケーションと、それを実行するための環境(プラットフォーム)は利用者側で手配する必要があります。

 しかし、その上位サービスに当たる「PaaS(Platform as a Service)」ならプラットフォームまでの層をサービスとして利用可能です。最上位の「SaaS(Software as a Service)」ではアプリケーションの要素もサービスとして提供されますから、利用者の側ではアプリケーションを使うためのパソコンやモバイル端末を用意しておけばよいのです。

クラウドのサービス内容は「IaaS」「PaaS」「SaaS」の3種類。利用形態は「パブリック」「プライベート」「ハイブリッド」に大別できる(出典:総務省「平成30年版情報通信白書」(2018年7月)における「第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」)

 クラウドの利用形態は、そのクラウドがどこにあるかに基づく分類です。基本となるのは、「パブリッククラウド」です。これは、クラウドサービス事業者のデータセンターで稼働しているクラウドをインターネットなどのデータ回線経由で多数企業が共同利用する形式です。一方、自社データセンター、または商用データセンターのハウジングサービス(場所貸し)にクラウドを構築すれば、自社専用の「プライベートクラウド」として使用することができます。

 これらには、それぞれの特長があります。一般には、パブリッククラウドはICT費用の抑制に効果的です。ただ、標準的なサービスしか利用できないケースも多くあるため、他社との競争を優位に進めるためのICTとして活用することは限界があるかもしれません。一方、プライベートクラウドなら自社のニーズに合ったクラウドを構築できますが、代わりに、ICT費用はオンプレミス並みになる可能性があります。

 こうした背景から現在では、業務特性に合わせて両者を使い分ける「ハイブリッドクラウド」を選ぶ企業が増えてきました。その中でも、複数のパブリッククラウドを含むハイブリッドクラウドや、複数のハイブリッドクラウドを併用する形態を、「マルチクラウド」と呼ぶことがあります。

AWSとAzureのソリューション構成はほぼ同等

 では、クラウドをどのように使えば、ICT費用を抑えつつ、自社の業務にぴったりの環境を構築できるのでしょうか。プライベートクラウドのみで運用する場合を別とすれば、ポイントはパブリッククラウドの選び方にあります。国内でも多くの企業が利用しているパブリッククラウドとしては、「Amazon Web Services(以下、AWS)」と「Microsoft Azure(以下、Azure)」の2つのサービスがあります。

 両者は、サービスをリリースしている企業が、オンプレミス用のソフトウェアを販売している企業であるか否かに最大の違いがあります。まず、Azureを提供するMicrosoftはオンプレミスOS「Windows Server」の開発販売元であるのに対し、AWSを提供するAmazon.com/Amazon Web Servicesはいわば“クラウド専業”の企業です。例えば、すでにオンプレミスでWindows Serverを使用中の企業にとっては、AWSよりもAzureのほうが導入への負担も少なく済み、使いやすいと言えるでしょう。

 もう1つの大きな違いは、国内に置かれているリージョン(データセンター群)の構成にあります。Azureは「Japan East」(東日本)と「Japan West」(西日本)の2リージョンで運用されています。これに対し、AWSは「AWS東京リージョン」をメインに「AWS大阪ローカルリージョン」を加えた構成です。例えば、東京から離れた場所に拡張可能なデータセンターを必要としている場合、大阪ローカルリージョンをIT資産に対する追加の対策として利用できます。(2019年6月現在)

 提供されているサービスの数は、どちらのパブリッククラウドも100以上はあります。利用者がその中から一つひとつ選んでいくのは現実的ではありませんから、特定の業務目的を実現するためのサービス群をまとめた「ソリューション」という単位で購入することになります。ソリューションの名前と内容はAWSとAzureでかなり異なるのですが、「クラウドコンピューティング」や「ソフトウェア開発と運用管理」といった大分類のレベルではほぼ同等といえるでしょう。

Microsoft製品との連携がしやすいAzure

 導入事例の多さでも、AWSとAzureは他のパブリッククラウドを大きく引き離しています。業種や業務の偏りもありませんから、あらゆる用途に対応できると見てよいでしょう。

 ただ、Azureは、Windows Serverとの親和性が高いことも大きな特長です。企業がそれまでに導入した既存の業務システムにMicrosoft製品が多く、これらを「リフト&シフト」(既存業務システムを現状の構成のままでクラウドのIaaSで動作させる手法)の形で作り替えていくのであれば、Azureが有利といえるでしょう。

 また、Active Directoryを使ったイントラネットなどをクラウドに移行したい場合などにも有効です。サーバーを買い替えたときのソフトウェア移し替えと同じようなものですから、技術的に難しいところは多くありません。その他、リフト&シフトで生じる「ライセンス持ち込み」についても、オンプレミスのWindows ServerとAzureは“同じ動作環境”とみなされることが多いので、企業が使用中のソフトウェアのほとんどは買い直しをせずにIaaSへの載せ替えが可能です。さらに、「Azure Marketplace」に多種多様なアプリケーションが用意されているため、さまざまな機能拡張を比較的容易に行える点も魅力です。

AWSは“デファクトスタンダード”として魅力的なサービスが充実

 一方、AWSは2004年から提供されているパブリッククラウドの“デファクトスタンダード”ともいえるサービスです。サービス系のアプリケーションやビッグデータ分析、ストレージなど幅広い利用に適した性能を誇り、パブリッククラウドを比較検討する際にはまず候補に挙がります。さらに、AWSは「AWS パートナーネットワーク (APN)」と呼ばれる世界規模のビジネスエコシステムを備えており、成長と顧客に対するサポートの向上を可能にするビジネス、技術、販売、およびマーケティングリソースを利用することもできます。企業の成長戦略を描くうえで、これらを重視する企業であればAWSに強く魅力を感じるでしょう。

 企業にとって、パブリッククラウドの選択は実に難しい課題です。社内のICT環境を見渡すとともに、将来に描く成長戦略に必要な機能といったさまざまな角度から検討し、最適なパブリッククラウドを選択していくことが重要です。

*Amazon Web Services(AWS)、Azure Marketplaceは、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。

*Microsoft Azure、Windows Server、Active Directoryは、米国Microsoft Corporationおよびその関連会社の商標です。

 

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コスト最適化や運用負荷軽減などを目的とした「パブリッククラウド」の利活用に注目が集まっています。近年ではBCP対策が求められる基幹システムへの採用に加え、テレワークの推進にも、パブリッククラウドが注目されています。

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山口 学

山口 学

1954年東京生まれ。14年間をアプリケーション・ソフトウエア開発エンジニアとして過ごし、1990年にフリーランス・ライターとして独立。IT分野の書籍・雑誌記事執筆とウェブコンテンツ制作に携わる。

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