牛丼チェーンのすき家では、コスト管理の徹底を意識するあまり、店舗スタッフの長時間労働や深夜時間帯に1人で店舗を運営する「ワンオペレーション」(以下ワンオペ)などを実施していました。こうした労働環境がSNSなどの投稿によって世間に知られると、インターネットを中心に社会的な批判を浴びるようになります。さらにはマスメディアでも報道されたことで、店舗の人材確保が難しくなり、一部の店舗で営業を休止せざるを得なくなるほどのうねりとなってすき家を襲いました。
すき家は窮地に陥ったことで、コスト管理だけでなく労働環境改善を経営の最重要課題として位置づける体制へと移行しました。その経営転換にすき家が至った背景と、その後のV字回復を達成した具体策とはどのようなものだったのでしょうか。
社会問題となった「ワンオペ」でブラック企業に
すき家は、ゼンショーホールディングス(以下ゼンショー)の子会社である株式会社すき家本部によって運営されています。ゼンショーは、すき家以外にもなか卯やココスジャパンなどを傘下に収めており、日本の外食産業の中でもトップクラスの売上高を誇る企業です。すき家は、その中核として30年以上の歴史を持つ牛丼チェーンです。
2010年代ごろになるとすき家では、労務管理に関連して数々の問題を抱えるようになります。その背景には、デフレにより牛丼チェーン同士の価格競争の激化によって、コスト管理が厳しくなったことがあります。1時間あたりにかかる人件費などの経費から、店舗ごとに目標とする売上金額が設定されており、売上金額が低いと人件費も削除されるため、1人で店舗を切り盛りするワンオペとなってしまっていたのです。
このようなコスト管理によって、店舗スタッフ一人ひとりの負荷は大きくなっていました。加えて、深夜まで及ぶ営業時間も大きな負荷となっていました。たとえば、店舗スタッフが病気などで欠勤すると、ほかのスタッフが残業でカバーするなどで、店舗を営業させていたのです。欠勤が深夜の時間帯となれば、ワンオペで長時間残業となるということも起きていました。
労働環境が、相次いで社会問題化したことで、すき家のイメージに大きなダメージを与えます。イメージの悪化から人材確保が難しくなり、2014年の春にはスタッフ不足を理由に営業を休止せざる得ない店舗が多くなり、売上が低下します。
すき家の売上低下は、親会社のゼンショーの決算にも影響を及ぼしました。連結子会社の全株式譲渡を特別損失に計上したこともありますが、2015年3月期の決算では111億の当期純損失となりました。
ブラック企業批判と親会社の最終赤字という二重の逆風にさらされたすき家は、社会的にも経営的にも存続を危ぶまれる事態に陥ったのです。
すき家が深夜営業の人材を確保した施策
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